TOP > 住まいづくり情報一覧 > お住まい訪問記> Vol.039 Yさん宅
設計者の川上一盛さんは、設計の基本プランが完成した際に友人の土木技師に、南側の擁壁に影響を与えずに安全に建物を施工する方法を相談しました。 「設計に入る前に地盤調査を行った結果、幸いにも杭工事を必要としない良好な地盤であることがわかりました。H鋼材を地盤に打ち込む山留め工事を行い、擁壁が崩れないようにすることで、安全に建物の施工ができることがわかりました」 Yさんも 「面積も広くなく、敷地に接する道路も幅が狭い道路なので、設計を依頼する前から家を建てるのは難しそうだなと思っていました。建てられるのか不安もありました。地盤調査の後、『建てられますよ』と言われたときはホッとしました」と振り返ります。
安心して施工できることが確認され、改めてスタートを切ることが出来たYさん宅。 約10カ月の設計期間後、難しい場所でも快く仕事を引き受ける施工会社も見つかり、いよいよ工事が始まりました。 「こういう土地だからこそ念をいれて慎重に。基礎工事が終るまでは眠れない日々が続きました」と振り返る川上さん。 「いい家を建ててあげたい」。設計者、施工者みんなの思いが通じ、安全に、無事、建物が完成しました。
Yさん宅・DATA
■ 設 計
傾斜地に位置するこの住宅は、地盤面が前面道路より4mの高さにあり、南面には4.0mの擁壁とその上に住宅が建っています。東西の隣地も敷地を同じ4mの高さに住宅が建ち、前面道路の幅は4.42mと狭く、60mほど先は行き止まりの袋地となっています。 建物の工事をするには隣地地盤が崩れないように三面の境界線に山留め工事が必要でした。敷地の道路境界線近くには電柱があり、さらに敷地が4.0m高いことで工事車輌の搬入が難しく、工事そのものが非常に困難な条件です。設計に入る前に地盤調査を行った結果、幸いにも杭工事を必要としない良好な地盤でした。 最初の基本プランができ上がるとまず友人の土木技師に南側の擁壁底盤に悪影響を与えずに安全に建物を施工する方法を相談しました。その結果、駐車場の奥行きは当初よりだいぶ短くなりましたが、2台分の駐車スペースは確保しました。 山留め工事に用いたH鋼材は抜き取らずそのまま打ち込んでいます。山留め工事には約200万円の費用がかかっています。傾斜地に建物を建築する際は地盤の支持力が十分にあることと、それなりのコストがかかりますので十分その予算を準備する必要があります。
1階床下には基礎高さ1mを利用して床下点検口を兼ねた7坪ほどの収納スペースがあります。建物全体でも狭いながらも収納を十分確保しています。設備はオール電化、IH式コンロ、エコキュートを使用し、ダウンライトはLED照明を使用しています。 道路幅が狭いところでは道路斜線で建物が斜めにセットバックしている建物をよく見かけますが、この建物はそれを避けるために道路斜線制限による計画よりも建物の高さを高く計画できる天空率という手法によって、斜めのセットバックがない建物を実現しました。
写真撮影:フォトアートたかの (高野 光)